Feb 16, 2019

好奇心を失ったらタコ イカだ!


「海を守るために働くすべての人へ」から始まる タコとイカへの愛にあふれた一冊。
考えるとはなにか、心とはなにかという疑問を考える時、人や脊椎動物とは全く異なる方法で「考える」タコやイカについて書かれている。読んでからしばらく、もし自分がタコだったらどんな気分か、、と考え始めて頭から離れなくなった。以来、タコの刺し身を食べるのがしんどいしありがたいし、なおさら美味しい。



ピーター・ゴドフリー=スミス
みすず書房














タコの心はどうなっているのか。賢いのはなぜか、どこでどうやって考えているのか。
時間がない人はこの著者Peter Godfrey Smithが、googleのセミナーでやったトークを聞けばこの本の大体のことはわかるし、動いてるタコの動画もあるのでよりわかりやすいと思う。あと、googleの人たちがする質問がとても鋭くて、本の内容以上に理解が深まる部分もある。

Peter Godfrey Smith: "Other Minds: The Octopus, the Sea, and the Deep Origins..." | Talks at Google


"心は何から、いかにして生じるのだろう。進化は「まったく違う経路で心を少なくとも二度、つくった」。一つはヒトや鳥類を含む脊索動物、もう一つがタコやイカを含む頭足類だ。哲学者であり練達のダイバーでもある著者によれば、「頭足類と出会うことはおそらく私たちにとって、地球外の知的生命体に出会うのに最も近い体験だろう」。人間とはまったく異なる心/内面/知性と呼ぶべきものを、彼らはもっている。本書は頭足類の心と私たちの心の本性を合わせ鏡で覗き込む本である。海で生まれた単細胞生物から、現生の頭足類への進化を一歩ずつたどれば、そこには神経系の発達や、感覚と行動のループの起源、「主観的経験」の起源があり、それは主体的に感じる能力や意識の出現につながっている。「タコになったらどんな気分か」という問題の中には、心とは何か、それは物理的な身体とどう関係するのかを解き明かす手がかりが詰まっている。知能の高さゆえの茶目っ気たっぷりの行動や、急速な老化と死の謎など、知れば知るほど頭足類の生態はファンタスティック。おまけに著者が観察している「オクトポリス」(タコが集住する場所)では、タコたちが社会性の片鱗を示しはじめているという。味わい深く、驚きに満ちた一冊。"

特に印象に残った箇所をいくつか、記録しておく。

  • 柔らかい体を自在にコントロールする5億個のニューロン
神経系には2つの見方ができるという。一般にイメージするような、目などの感覚器官から脳や脊髄を通じて体を動かし運動させるという、感覚と運動をつなげる働きが「感覚ー運動観」。そしてもう一つが「行動ー調整観」で、行動そのものを調整して、コントロールする働きがあるそうだ。 タコのような骨のない軟体をコントロールするには筋肉をコントロールし調整し、行動そのものを生み出す神経系の機能が必要らしい。

確かに、、もし私の体に骨や関節が全然なかったら、、自由自在に折り曲げたり掴んだり伸ばしたりできるとしたら、、しかも8本も腕や足があって別々に動かせるとしたら、、、って想像してみるとめちゃくちゃ便利で楽しい!だけど、コントロールしなきゃいけない身体が多すぎてパニックになりそう。それをパニックにならずにときには8本バラバラに好き勝手に、時には全身のうちの一部あるいは全部を、ひとつの意思でコントロールして動かせるのが、タコ。すごい、、すごすぎる。(そして筋肉と神経の詰まった足はとても美味しい!)無脊椎動物で、体のすべてが動かせて、さらに吸盤という感覚器官もあちこちについてるタコを、脊椎動物である自分と比べると違い過ぎていて、どんな感じがするのか想像しても想像してもよくわからなすぎる。人間が持ってるようなある程度固定された身体から生まれる認知、「身体化された認知」が、たぶんタコになった気分を考えるときには通用しなくて、変幻自在に変わり続ける体をもった生き物の心はどう動くのか、どう感じるのか。


  • 「内なる言語」を、ちゃんと使えてるだろうか。
4~6章辺り、ちょっと哲学の理論が増えてきて理解するのが難しかった。
考える、とはどういうことか。という疑問を、タコの近縁であるコウイカの身体の模様の複雑な移り変わりをヒントに考えている。途切れることなく移り変わる模様の変化は、全身で"考える"イカの神経の会話が漏れ見えているんじゃないか、と著者は言っている。(という私の大雑把な理解。)

 人の思考はすべてが外に表現されるわけではなくて、脳内で自分自身で会話することができる。文字にしなくても、言葉にしなくても、"考える"ことは、無限にできる。

最近、仕事とか考えるとしんどいこと多くて、できるだけ思考しないで済むように、強い音楽聞いたり、できるだけ何も考えないように努力したり、もはや意識せず考えないようにしてしまっていて、これではイカ以下だなぁと思ったりした。もっと内なる会話、しよう。考えることをやめた先には死が待っている。といつも思いながらダイビングしていたのを思い出した。(思考停止してパニックになったら、実際その先には死がすぐそこにある。)とはいえ、自分の思考や神経の活動そのものが身体の模様になっていて移り変わって見えていたら何も考えてないのも何考えているかも見えてしまって、恥ずかしくなりそう。実際は、イカ本人は自分や仲間の模様はそんなに見えていない?らしいけれど。


  • ”賢さ”をつくるのは、社会性か好奇心か。
タコは、社会性の高い生き物ではない。それでも賢いのはなぜだろう。答えはまだ無いらしい。。一般に人間やチンパンジーなど社会性の高い生き物は賢いと考えられている。一方で、タコの社会性は高くは無いが、賢いエピソードや実験結果は多くある。タコが賢いのは、柔らかな身体をコントロールするために発達した神経系と、好奇心旺盛で冒険好き新しもの好きなところからきているのではないか。好奇心旺盛なのは、雑多な食物をとって食べる狩猟や採餌の仕方をしているからだそうだ。

実験結果や著者がタコを観察していたオクトポリスでのエピソードを知ればしるほど、タコの好奇心旺盛さには驚く。ぜひタコと友達になって話してみたい。そして、タコと話はできなくても、私も生活のなかでの好奇心、忘れないようにしたい。



一冊まるごと、今まで考えたことのないことを考えるヒントに満ちていて面白い本だった。私は読みながら、「タコになったらどんな気分か」とか、「そういえば奥武島でみたコウイカの模様はどんな考え事だったんだろう」とか、「全身軟体動物になったらまず何しようか」とか、「あの時水中で噛みちぎって食べたタコの足は美味しかったけど、ちぎられた方は痛かったんだろうか」とかそんなことばっかり考えていた。

もっと別のところに興味がある人はきっと、人間とは別の"知能”について考えるヒントになりそう。タコや人間レベルになるのはまだ先だろうけど"人工知能"とはなんなのか、どうういう"mind"なのかどうそれをデザインするのか。あるいは今までと全然違う形のロボットやコンピュータについて考える時のヒントになるかも。中央集権的な構成で、人間のような脳に思考する機能が集中してあり感覚器官と運動器官は別についているような、CPUとI/Oが別になっているようなノイマン型のコンピュータ?ではなくてもっとちがう形を考えられるかも。

重版出来!も納得の面白い本でした。

ちなみに、表紙の印象的な絵は、ドイツの偉大な生物学者でめちゃくちゃ絵がうまかったエルンスト・ヘッケル Ernst Haeckel の Kunstformen der Natur 「生物の驚異的な形」から。2014年に和訳新版が出ているので見てみよう。

生物の驚異的な形
生物の驚異的な形
エルンスト ヘッケル